私たちが考えるように (As we may think)

仕事に関係することと並行して私が影響を受けた書物を紹介していけたらと思っています。

初回に紹介するのは 思考のための道具 という本です。原著 Tools For Thought が出版されたのが 1985年。日本語訳が1987年と今から40年近くも前になるのですね。

40年前にコンピュータについて書かれた歴史書ですが、読み返してみても決して古びた内容とは感じないと思います。

現代のようなコンピュータハードウェア、ソフトウェア、ネットワークそして人工知能の黎明期を作った人々が何を考え、何を求めて研究や開発を進めたのかが丹念に書かれているとても素晴らしい書物だと思います。

私はこの中の第九章「長距離考者の孤独」が最も印象に残っています。この章は ダグラス・エンゲルバート という一種孤高の研究者・エンジニアが主人公です。 エンゲルバートは「マウス」「グラフィカルユーザーインターフェイス」「ハイパーテキスト」などの元になるアイデアを1960年代に開発、実装を行なっていました。

彼がこのような研究、開発を行うきっかけになったのが第二次世界大戦中にヴァネヴァー・ブッシュ によって書かれた論考 私たちが考えるように (As we may think) (その日本語訳) でした。

第二次世界大戦の時代ですら、人間が新たに作り出す研究成果や新しいツールは、既に一人の人間が従来のような方法で全体を認識することは不可能になっているという認識に基づいてブッシュは「MEMEX」という機械を想像しました。

MEMEXは膨大な知識にアクセスでき、音声認識による記録や、目の前に取り出して来た情報に関連する情報に連想するようにスイッチできるなどの機能を提供する機械です。現代のユーザーインターフェイス、WEB、LLMなどを作って来た人たちの原案がここにあると感じます。

エンゲルバートはそのアイデアに触発されて戦後に研究、開発を始めました。この本の中にはそのような様々なアイデアや夢を思い描いた人たちの軌跡が物語のように示されています。

コンピュータ開発の歴史から今起こっていることを考えたい人にはとても良い資料になると思います。

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